アーバンシー(欧字名:Urban Sea、1989年 - 2009年)はアメリカ生産、フランス調教の競走馬。主な勝ち鞍は1993年の凱旋門賞。引退後に繁殖牝馬としてG1馬4頭を輩出し、そのうちガリレオおよびシーザスターズの2頭は英ダービーに勝利したうえで種牡馬としても大成功をおさめている。

血統背景

父・Miswakiは2歳時に仏G1サラマンドル賞を制し、デューハーストステークスではストームバードの3着に入るなど、仏英米で生涯13戦6勝をあげた。引退後は種牡馬としてアメリカで供用され、アーバンシーのほかにジャパンカップ勝ち馬のマーベラスクラウンやBCクラシック勝ち馬のブラックタイアフェアーを輩出している。種牡馬としては、スピード系種牡馬であるミスタープロスペクター直仔としては珍しく芝への適応力の高いステイヤー血統であった。

母・Allegrettaは1978年生まれの英国産馬。ドイツの名門牧場・シュレンダーハン牧場が育んだ「Aライン」と呼ばれる牝系の出身であり、父Lombardは現役時代にドイツ年度代表馬を2度獲得している。イギリスおよびアメリカで競走馬生活を送り、生涯9戦2勝、英G3・リングフィールドオークストライアルで2着に入るなどの実績を挙げた。引退後はアメリカのケンタッキー州で繁殖牝馬となったもののフランス人生産者へ転売され、アメリカのデナリ牧場に繋養されることになった。そこで1989年2月18日に生まれたのが5番仔・アーバンシーである。

競走馬時代

デビュー前

アーバンシーはデナリ牧場で誕生したのちはフランスのエトレアム牧場で過ごし、1歳時(1990年8月)にドーヴィルのセリ市で28万フランで売却された。落札したのは日本人の画商・沢田正彦だったが購入からまもなくして破産し、アーバンシーは香港の貿易商デヴィッド・ツィとほか2名に売却された。馬名の意味は「都会の海」であり、ヴィクトリア・ピークから臨む海を連想したものであるという。

2歳(1991年)から3歳(1992年)

アーバンシーは2歳時にフランスのジャン・レスボルド厩舎からデビューし、2戦目には未勝利戦に勝利するまずまずの滑り出しを見せた。3歳時はロンシャン競馬場でラ・セーヌ賞を、ドーヴィル競馬場でピアジェドール賞に勝つものの、重賞ではディアヌ賞6着、ヴェルメイユ賞3着など好走こそすれ勝ちきれないレースが続いた。その間にデヴィッド・ツィ以外のオーナーの財政状況が悪化したため、凱旋門賞ウィークにロンシャンで開催されるセリ市に上場されることになった。アーバンシーの才能に光るものを見出していたレスボルド調教師のためにデヴィッドは入札を続け、300万フラン(当時のレートで日本円に換算するとおよそ6000万円)もの金額で買い戻したが、3歳時はこのあとも重賞制覇には至らなかった。

4歳(1993年)から5歳(1994年)

上述の通り3歳時はパッとしない競走成績だったアーバンシーであるが、4歳になると徐々に頭角を表し始める。3月にG3・エクスビュリ賞で重賞初制覇を果たし、G2・プリンス・オブ・ウェールズSでクビ差の2着を経て、G3・ゴントービロン賞で重賞2勝目をあげた。

ゴントービロン賞の制覇後、陣営は凱旋門賞への出走を決めた。鞍上はエリック・サンマルタン。エリックはフランスの伝説的騎手イヴ・サンマルタンの息子であるが、彼自身は当時28歳にもかかわらずそれまで目立った活躍がなく、凱旋門賞への騎乗もこれが初めてである。なお、直近でアーバンシーの手綱を取ってきたキャッシュ・アスムッセンは1番人気エルナンドへの騎乗が決まっていた。

この年の凱旋門賞は確たる本命馬が不在ということで23頭立てであり、そのうち16頭がGI馬であった。1番人気は仏ダービー馬エルナンドおよびオペラハウスの4.7倍、次いで英オークス馬イントレピディティの4.9倍、愛オークス馬ウィームズバイトおよび英セントレジャー2着馬アーミジャーの5倍、仏オークス馬シェマカの8.8倍と続いた。本馬はここまで調子をあげてきてはいたものの実績に劣るため評価が低く、当日は13番人気、最終単勝オッズは38倍であった。当日の天気は晴れだったものの前日までの雨によって馬場状態が渋っており、その指数は4.4であった。

レースは前年の英オークス馬ユーザーフレンドリーがハナを切って逃げるものの、2ハロン通過時点で単勝139倍のダリューンが先頭に立つめまぐるしい序盤となる。アーバンシーは7,8番手の好位で最内に控えた。その後はスローペースで流れ、4コーナーを過ぎるとレースが動き出す。直線残り300メートル地点で先団についていたオペラハウスが先頭に立つと、内からアーバンシーが、外からホワイトマズルがそれぞれ追い込んでくる。オペラハウス以外の有力馬は極端な重馬場に足を取られて総崩れとなり、残り200メートル地点になるとオペラハウスに代わってアーバンシーが先頭に立ち、徐々に差を詰めてくるホワイトマズルをクビ差で振り切ったところがゴールであった。アーバンシー自身はもちろん、調教師のレスボルド師、騎手のエリック・サンマルタンの3者いずれもこれがGI初制覇となった。勝ちタイムは2分37秒30で、これは当時のロンシャン競馬場の芝2400メートルのレコードタイム2分26秒30より11秒も遅い決着となった。1着アーバンシーは前述の通り単勝38倍、2着のホワイトマズルは55倍と人気薄の決着となり、2頭のジュレム・ガニャン(日本における馬連に相当する)は452.2倍の万馬券となった。

この勝利はフロック視される向きもあり、優駿は「アーバンシーの快勝に場内騒然」、週刊Gallopは「番狂わせ勝ち」、ギイ・チボーは「驚愕の凱旋門賞」などと評している。石川ワタルは騎手の乗り方の巧みさに触れつつも、「非常に時計のかかる馬場状態になったこと」が勝因のひとつであろうと述べている。高橋源一郎はこの勝利について「今年の凱旋門賞はゴチャゴチャしたレース」だと述べ、アーバンシーだけは不利を受けなかったこともあり、ホワイトマズルが一番強い競馬をしていたと評している。

陣営は凱旋門賞の勝利後、予備登録をしているジャパンカップへの出走を表明して参戦した。凱旋門賞を経たアーバンシーの馬体はよく言えば「絞られた」、悪く言えば「ガレた」状態であり、鈴木淑子は「アーバンシーは、これが凱旋門賞馬? と思うくらい見かけには"?"が付きました」と評している。この年のジャパンカップは「前年にひけをとらない豪華なメンバー」、「掛け値なしに史上最高のメンバ―」と評され、アーバンシーは単勝10番人気でレガシーワールドの8着に終わった。

5歳時は緒戦のG2・アルクール賞に勝利するも、その後は勝ち星をあげることなく引退した。生涯戦績は24戦8勝であった。

競走馬としての評価

栗山求はアーバンシーの能力について「スピードには欠けるが底力、スタミナ、道悪適性に秀でている」と、山野浩一は「ほとんどやや重よりも悪い馬場で活躍しており、パンパン馬場は得意でないだろう」と評している。JRA-VANによると良馬場での連対率が13戦で31%であるのに対して、重馬場での連対率は7戦で86%である。

週刊Gallopは凱旋門賞で馬群からうまく抜け出してきたことをあげて「牝馬ながら牡馬顔負けの勝負根性がある」と、ヴェルメイユ賞で逃げて3着だったことをあげて「脚質も自在」と評価している一方、勝ち鞍が重馬場のレースに集中していることをあげてスピード不足を指摘している。

繁殖牝馬時代

繁殖入りしたアーバンシーは生涯で11頭の産駒を輩出し、2009年3月2日、繋養先のアイリッシュ・ナショナルスタッドにて出産後の合併症で死亡した。没年齢は20歳であった。産駒11頭のうち8頭がステークスウィナーで、6頭が重賞勝ち馬、うち4頭がG1勝ち馬である。また、11頭のうちレースに出走した仔9頭はすべてブラックタイプ勝ち馬となっている。

産駒のガリレオ(父・サドラーズウェルズ)は2001年に無敗で英愛ダービーを制覇してカルティエ賞最優秀3歳牡馬を獲得、種牡馬となってからも11年連続・合計12度の英愛リーディングサイアーを獲得している。

ブラックサムベラミー(父・サドラーズウェルズ)はタタソールズゴールドカップなどG1を2勝し、マイタイフーン(父・ジャイアンツコーズウェイ)は米G1・ダイアナステークスに勝利している。

シーザスターズ(父・ケープクロス)は2009年に英2000ギニーおよび英ダービーを制覇してナシュワン以来20年ぶりとなる英クラシック2冠馬となり、その後も凱旋門賞を含むG1・6勝をあげ、2009年のカルティエ賞欧州年度代表馬を獲得している。種牡馬としても英愛ダービー馬ハーザンド、グッドウッドカップ4連覇・ゴールドカップ3連覇のストラディバリウス、2022年カルティエ賞年度代表馬のバーイードらを輩出している。

繁殖牝馬としての評価

水野隆弘はアーバンシーがガリレオを産んだことについて「アーバンシーの競走生活が少し違う結果であれば、今世紀の血統地図は大きく違うものになっていたかもしれない」と述べている。JRA-VANは産駒が種牡馬として活躍し、その血が世界中に広まったことをあげて「競馬がブラッドスポーツと言われる由縁を考えれば、繁殖牝馬として大成功を収めたアーバンシーは歴史的な名馬と言えるだろう」と評している。

合田直弘はアーバンシーの産駒のみならず近親からも多数の活躍馬が出ていることをあげて「いまや世界でも最高の名血との誉れを授かるにいたった」と評し、産駒のガリレオが種牡馬として欧州で大活躍していることをあげて「彼を通じてアーバンシーの血脈は世界の生産界に影響を及ぼしつつある」と述べている。また、ベーリングやラムタラといった産駒があまり活躍していない種牡馬からも活躍馬を出している点を高く評価している。

2018年の凱旋門賞では1着から8着までが、2017年は1着から3着までのすべての馬が血統表にアーバンシーを含んでいたほか、2016年は1着から3着までがすべてガリレオ産駒であり、Martin Stevensは「アーバンシーはサラブレッドの歴史において最も重要な牝馬の1頭と見なさなければならない」「凱旋門賞(G1)を"アーバンシー賞"と改名することを本気で考えなければならないかもしれない。もっと現実的なところでは、パリロンシャン競馬場のウィナーズサークルにこの偉大な牝馬の銅像を建立しなければならないかもしれない」と評している。

繁殖成績

※出生年順、太字はG1勝ち馬、斜体はステークスウイナー

  • アーバンオーシャン(Urban Ocean、1996年生、牡、父ベーリング) - ガリニュールステークス(愛G3)
  • メリカー(Melikah、1997年生、牝、父ラムタラ) - プリティーポリーステークス(愛L)、アイリッシュオークス(愛G1)2着 曾孫に2018年ダービーステークス優勝馬マサー
  • ガリレオ(Galileo、1998年生、牡、父サドラーズウェルズ) - ダービー(英G1)、アイリッシュダービー(愛G1)、キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス(英G1)
  • ブラックサムベラミー(Black Sam Bellamy、1999年生、牡、父サドラーズウェルズ) - ジョッキークラブ大賞(伊G1)、タタソールズゴールドカップ(愛G1)
  • アティキャス(Atticus、2000年生、牡、父サドラーズウェルズ) - 不出走
  • オールトゥービューティフル(All Too Beautiful、2001年生、牝、父サドラーズウェルズ) - ミドルトンステークス(英G3)、オークス(英G1)2着
  • マイタイフーン(My Typhoon、2002年生、牝、父ジャイアンツコーズウェイ) - ダイアナステークス(米G1)
  • チェリーヒントン(Cherry Hinton、2004年生、牝、父グリーンデザート) - ブルーウィンドステークス(愛G3)2着、ブレスレット(アイリッシュオークス(愛G1))の母
  • シーズレガシー(Sea's Legacy、2005年生、牡、父グリーンデザート) - 不出走
  • シーザスターズ(Sea the Stars、2006年生、牡、父ケープクロス) - 2000ギニー(英G1)、ダービー(英G1)、エクリプスステークス(英G1)、インターナショナルステークス(英G1)、アイリッシュチャンピオンステークス(愛G1)、凱旋門賞(仏G1)
  • ボーントゥシー(Born To Sea、2009年生、牡、父インヴィンシブルスピリット) - ブレニムステークス(愛L)、アイリッシュダービー(愛G1)2着

血統表

  • 母Allegrettaは生涯9戦2勝。
  • 半弟*キングズベストは英2000ギニー勝ち馬。
  • 半妹Turbaineからは独リーディングサイアーのTertullianが出ている。
  • 2代母Anatevkaからは独GIIドイチェスセントレジャー勝ち馬のAnnoと独GIIウニオンレネン勝ち馬のAnatasが出ている。
  • 5代母Asterbluteはドイチェスダービー勝ち馬。
  • その他の近親の活躍馬については#主要なファミリーラインを参照。

主要なファミリーライン

牝系図の主要な部分(太字はG1級競走優勝馬)は以下の通り。*は日本に輸入された馬。「f」は「filly(牝馬)」の略、「c」は「colt(牡馬)」の略。

牝系図の出典:Galopp Sieger、牝系検索α、平出2019(P137)

脚注

注釈

出典

参考文献

雑誌

  • 合田直弘「欧州の大種牡馬ガリレオ死す」『優駿』2021年9月号、中央競馬ピーアール・センター、104-105頁。 
  • 栗山求「GIホースが紡ぐ血 vol.12」『優駿』2019年3月号、中央競馬ピーアール・センター、114-115頁。 
  • 奥野傭介「世界の名馬 シーザスターズ」『優駿』2014年11月号、中央競馬ピーアール・センター、92-93頁。 
  • 沢田康文「シーザスターズ探訪録」『サラBLOOD! vol.3』2014年9月13日、エンターブレイン、6-13頁。 
  • 奥野傭介「2009年の記憶 14 シーザスターズ」『優駿』2010年1月号、中央競馬ピーアール・センター、44-45頁。 
  • 石田敏徳「Play-back GRADE-I races 第13回ジャパンカップ」『優駿』1994年1月号、中央競馬ピーアール・センター、14-23頁。 
  • 「'93 G1レース回顧」『週刊Gallop』1994年1月5,9日合併号、産業経済新聞社、93-108頁。 
  • 「「現地情報」と「(日)馬問題」から読む海外競馬通3氏のJC「勝つのはこの馬」」『週刊ポスト』第1220巻1993年12月3日号、小学館、206-207頁。 
  • 石川ワタル「海外ニュース」『優駿』1993年11月号、中央競馬ピーアール・センター、126-131頁。 
  • 「凱旋門賞速報 アーバンシーの快勝に場内騒然」『優駿』1993年11月号、中央競馬ピーアール・センター、48-53頁。 
  • 「ジャパンカップ大特集」『週刊Gallop』1993年11月28日号、産業経済新聞社、5-39頁。 
  • 山野浩一「13回ジャパンC 招待馬紹介」『競馬ブック』第1070巻1993年11月22日号、ケイバブック、56-64頁。 
  • 「WORLD NEWS」『週刊Gallop』1993年10月24日号、産業経済新聞社、98-99頁。 

単行本

  • 関口隆哉、宮崎聡史『種牡馬最強データ'23~'24: 実績と信頼の充実データ』誠文堂新光社、2023年。ISBN 978-4416523704。 
  • 江面弘也『名馬を読む3』三賢社、2021年。ISBN 978-4908655197。 
  • 平出貴昭『覚えておきたい世界の牝系100』主婦の友社、2019年。ISBN 978-4073411499。 
  • ギイ・チボー『フランス競馬百年史 : 1900-2000』競馬国際交流協会、2004年。全国書誌番号:20723599。 
  • 早野仁『20世紀の種牡馬大系』競馬通信社、2000年。ISBN 4-434-00732-7。 

外部リンク

  • 競走馬成績と情報 netkeiba、スポーツナビ、JBISサーチ、Racing Post

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